東京地方裁判所 平成10年(ワ)3704号 判決
原告 株式会社ザ・ビルディングアルフア
右代表者代表取締役 何川裕
右訴訟代理人弁護士 植草宏一
同 千葉道則
同 寺尾幸治
同 中川徹也
原告補助参加人 佐野新一郎
原告補助参加人 株式会社オゥレッチビルディング
右代表者代表取締役 竹山文和
右二名訴訟代理人弁護士 本田俊雄
同 杉浦正敏
同 川村百合
同 桐生貴央
同 田中宏明
原告補助参加人 ロウエル恒子
右訴訟代理人弁護士 花沢剛男
原告補助参加人 中澤博
同 有馬俊洋
同 城戸靖子
同 鶴巻真一
同 佐藤由夏
同 相澤泰彦
右六名訴訟代理人弁護士 上柳敏郎
同 安藤朝規
被告 株式会社銭高組
右代表者代表取締役 銭高善雄
右訴訟代理人弁護士 茅根煕和
同 春原誠
被告補助参加人 殖産住宅相互株式会社
右代表者代表取締役 南江恭一
右訴訟代理人弁護士 矢可部一甫
被告補助参加人 東洋不動産株式会社
右代表者代表取締役 松風暁和
右訴訟代理人弁護士 大脇茂
同 黒澤弘
同 木皿裕之
同 田村佳弘
右訴訟復代理人弁護士 高橋真司
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用及び被告補助参加によって生じた費用は原告の負担とし、原告補助参加人らの参加によって生じた費用は同参加人らの負担とする。
理由
第一請求
被告は、原告に対し、金七七億九二四二万五六九〇円及びこれに対する平成九年五月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、被告との間で、土地区画整理事業を行うための土地を一部買収したところ、被告において、原告との業務委託契約上の協定に反し、原告が買収した土地の買取りを拒否したと主張して、主位的に右委任契約に基づく費用ないし報酬又は被告の債務不履行に基づく損害賠償を請求し、予備的に商法五一二条に基づく報酬及び費用を請求する事案である。
二 争いのない事実等
(証拠の引用のない事実は当事者間に争いがない。)
1 当事者
(一) 原告は、昭和六三年に宅地建物取引業の免許を取得し、不動産販売仲介、あっせん及びコンサルタント、他人のための不動産買取代行を主たる業務とする株式会社である。
(二) 原告補助参加人株式会社オゥレッチビルディング(以下「参加人オゥレッチビルディング」という。)は、貸ビル業、ビル管理業、不動産の売買及び仲介業を主たる業務とする原告のグループ企業であり、竹山文和が代表者を務めている。(甲二三の五、二七)
(三) プランニング・ロカ株式会社(以下「プランニング・ロカ」という。)は、不動産の売買、賃貸、仲介及び管理を主たる業務とする株式会社である。(甲二三の六)
(四) 被告は、建築工事の請負、企画、設計及び監理等を主たる業務とする株式会社である。
2 原告を中核とする企業グループは、昭和五〇年ころから被告との取引を開始し、昭和五九年ころからは被告その他の業者から不動産の買収代行業務を受注するようになり、同年九月ころから開始された東京都文京区における再開発事業及び昭和六二年に開始された千葉市緑区宮崎町における大規模宅地開発事業においては、被告の依頼により用地買収等を代行した。
3 被告の千葉市越智町・大木戸町地区における土地区画整理事業計画(以下「本件事業計画」という。)について
(一) 被告は、平成二年一月末ころ、ダイヤ地所株式会社(以下「ダイヤ地所」という)の取締役である杉本次男(以下「杉本」という。)から、千葉市越智町及び大木戸町において土地区画整理事業を望む地元住民の要望があるため、事業施行者となる区画整理組合の業務代行をする適当な開発業者を紹介するよう要請され、これを承諾した。
(二) 被告の担当者は、同年二月末ころ、杉本を同道して住友不動産株式会社(以下「住友不動産」という。)の担当者と面会したが、その席上で住友不動産の担当者から、本件事業計画の実現可能性を判断するため、被告において調査実施に協力するよう要請されるとともに、事業の見通しが立つ場合は、住友不動産と被告が共同で施行者の業務代行者となって事業を遂行する、すなわち両者が共同の事業主体となるのであればそれに参加する旨の回答を得た。
そこで、被告において、本件事業計画が実現可能か否かについての調査を行い、同年六月ころまでには、本件事業計画に積極的に取り組むとの結論に至った。
なお、住友不動産は、平成三年初めころ、本件事業計画から撤退し、その後、平成三年五月一五日に被告補助参加人らが本件事業計画に参加した。
(三) 本件事業計画の概要は以下のとおりであった。
(1) 本件事業計画の目的
千葉市越智町・大木戸町地区(約五九万坪の区域、後に約五〇万坪の区域に変更)内の土地を対象として、平成七年の市街化区域編入を目指して土地区画整理事業を行い、土地区画整理事業の完了後、先行買収した土地についての開発分譲事業を行う。
(2) 事業手法
ア 被告と住友不動産(撤退後は被告補助参加人ら、以下同じ。)が共同で右地域内の土地の先行買収及び土地区画整理事業を行う。
イ 事業の持分比率は被告グループが五〇パーセント、住友不動産が五〇パーセントとする。
ウ 先行買収する土地の面積は五〇万平方メートル(約一五万坪)とし、買収については他の業者に行わせる。
エ 土地区画整理事業に伴う造成工事の施工は被告が行う。
(3) スケジュール
平成二年一〇月 先行買収開始
平成四年一〇月 先行買収完了
平成五年 四月 区画整理組合設立発起人会発足
平成五年一〇月 組合設立準備委員会発足
平成六年 市街化区域編入申請
平成七年 市街化区域編入
組合設立認可申請
組合設立
換地設計、仮換地指定、移転
平成八年 工事着工
4 原被告間の業務委託協定締結について
(一) 被告は、本件事業計画に必要な用地の先行買収業務を行う業者として、従前から取引のあった原告を推薦したところ、住友不動産はこれを承諾した。
そして、被告は、先行買収予定の土地のうち一〇万坪分について原告に買収させることとし、その余の五万坪の土地については、ダイヤ地所を仲介業者とし、同社を通じて土地所有者から直接買い受けることとした。
(二) 平成二年九月一〇日、原告と被告は、被告において、本件事業計画の用地の先行買収業務を原告又は原告の指定する者に委託する旨の業務委託協定(以下「本件業務委託協定」という。)を締結した。
本件業務委託協定には以下の規定がある。
(1) 第一条(協定の目的)
被告は、原告又は原告の指定する者に対し、被告又は被告の指定する者が本件事業計画の対象となる本物件について、都市計画法二九条に定める開発許可を取得し、又は土地区画整理を行ったうえ、被告の計画する仮称越智・大木戸宅地開発についての開発事業を行うことができるように本物件の買収業務を委託し、原告はこれを受託することを目的とする。
(2) 第二条(業務内容)
原告の前条の買収業務は、本物件の土地所有者等の地権者と折衝し、原告が地権者との間で本物件の売買等についての国土利用計画法(以下「国土法」という)二三条の届出等をしたうえ、原告と地権者との間で売買契約等の買収契約を締結し、更に、原被告間で本物件の売買をするための国土法の届出をした後、本物件を完全な所有権として被告に移転する為に必要な一切の事項とする。
本物件の買収業務の範囲は、三三万平方メートルを目途とする。
(3) 第三条(委託期間)
本契約による業務委託期間は、本契約の締結の日から平成五年八月二〇日を目途とする。
但し、原被告協議のうえこれを延長することができる。
(4) 第四条(買収予定価格)
原被告は、第一条の買収業務によって原告が本物件を取得するにあたっての地権者との売買契約等の買収契約における買収予定価格は、本物件の売買についての国土法届出認可価格以下で原被告協議のうえ決定するものとする。
(5) 第五条(原被告間の売買の国土法届出)
原告は被告に対し、買収契約によって本物件全体を取得した後、原被告間で協議する時期に、本物件全体を一括して原告から被告への売買契約を締結するための国土法の届出を行うものとする。
但し、国土法届出売買予定価格は本物件三・三〇五七八平方メートル(一坪)当たり二五万円を目途とする。
また、本物件の一部について売買するための国土法の届出を行うことが妥当と判断される場合には、原被告間で協議するものとする。
(6) 第六条(原被告間の売買契約の締結時期等)
原告と被告とは、前条の国土法届出手続認可後、速やかに原被告間で本物件全体について一括して売買契約を締結するものとする。
但し、本物件の一部について売買契約を締結することが妥当と判断される場合には、原被告間で協議するものとする。
右の売買契約における売買予定価格は、本物件三・三〇五七八平方メートル(一坪)当たり二五万円を目途とする。
但し、前条の国土法届出によって売買予定価格について行政庁より勧告を受けた場合には、売買価格について原被告間で協議するものとする。
(7) 第七条(再委託)
原告は、買収契約を締結するに際し、原告の業務を第三者に委託することで買収業務が容易となると判断される場合には、第三者に原告の買収業務を再委託することができるものとする。
5 原告による土地の先行買収
原告は、本件業務委託協定締結後、先行買収に着手し、平成二年九月一四日から平成四年五月までの間に、別表のとおり、契約面積で一〇万三〇四〇・一八平方メートル(公簿面積で九万五四四二平方メートル)の土地(以下、一括して「本件土地」という。)につき先行買収を行った。
本件土地の買受名義人は、原告(別表の1乃至53の土地)の外、本件業務委託協定第七条により原告が再委託した参加人オゥレッチビルディング(別表の54ないし93の土地、別表では同社の表示を「オウレ」としている。)、プランニング・ロカ(別表の94の土地、別表では同社の表示を「プラン」としている。)及び竹山文和(別表の95乃至99の土地、別表では同人の表示を「竹山」としている。)である。
本件土地の先行買収原価は、一平方メートルあたり約四万五五五〇円(一坪あたり約一五万〇五七八円)である。(甲一五の一の一ないし甲一八の四の二、弁論の全趣旨)
6 被告は、原告に対し、平成五年八月二四日付け及び同年一〇月一日付けの書面により、原告が本件業務委託協定の業務委託期間内に三三万平方メートルの土地についての先行買収をなさず、本件土地のみでは本件業務委託協定の目的である開発事業を行うことが不可能であるとして、本件業務委託協定が期間満了によって終了したこと及び被告は本件土地を買い取る意思のないことを通知した。
その後、原告は、平成九年五月六日到達の書面をもって、被告に対し、本件土地について速やかに原告と被告との間で売買契約を締結するため、国土法二三条に基づく届出手続きをすることに協力するよう催告するとともに、同月一五日、右届出手続に係る書面を持参して、本件業務委託協定の履行を求めるなどしたが、被告がこれを拒否したため、同月二〇日到達の書面により、被告に対し、被告の債務不履行を理由に本件業務委託協定を解除する旨の意思表示をした。
三 本件の争点
1 本件業務委託協定の契約内容等
本件業務委託協定により、原告は、被告に対し、平成五年八月二〇日までに、約三三万平方メートルの土地を買収して、一括してその所有権を移転することが義務づけられていたか否か。
2 商法五一二条所定の報酬請求権の成否
四 原告の主張
1 本件業務委託協定の契約内容等について(争点1)
(一) 本件業務委託協定において、被告が原告に委託した業務内容は、原告が被告に売却する目的で、原告の名義と費用立替えにより地権者から土地を買収すること、右買収した土地を将来被告に売却するまでの間、原告において管理し、その間、右土地についての公租公課及び管理費等を原告において負担すること、原告と被告とが協議して決定した時期に、国土法の届出手続を経て、原告から被告に右土地を売却することである。
したがって、本件業務委託協定は、被告から原告に対し土地の買収を委任するとともに、買収した土地につき、それを被告に売却するまでの間管理することを準委任する混合契約であり、原告は、被告が本来自ら行うべき土地買収業務を、原告において費用を立て替えた上で代行しているにすぎないから、そもそも被告は、本件土地の買取りを拒否することはできない。
(二) 本件業務委託協定の契約内容について
本件業務委託協定において、原告は、三三万平方メートルの土地を先行買収する義務を負っておらず、本件業務委託協定第二条第二項の三三万平方メートルとの記載は、買収の一応の目途、すなわち上限にすぎない。
また、本件業務委託協定の業務委託期間については、平成二年九月一〇日から平成五年八月二〇日を目途とするとされているが、当時市街化調整区域に属していた本件事業計画内の土地が、市街化区域に編入されることが予定されていたのは平成七年であったことからしても、右条項は当事者が当然に延長することを前提とした一応の目途にすぎず、土地買収の確定期限ではない。
したがって、被告は、原告が平成五年八月二〇日までに三三万平方メートルの土地を先行買収しなかったことを理由に、本件土地の買取りを拒否することはできない。
(三) なお、本件事業計画は、土地区画整理事業として実行されるものであるから、対象地域の地権者数及び対象地域の土地の面積につき、担当行政庁との事前協議に必要な数の仮同意が得られれば、原告が先行買収した土地の面積が三三万平方メートルに満たなくとも、本件事業計画の実施は可能である。
したがって、仮に、本件業務委託協定が被告の主張するような請負類似の契約であったとしても、履行された先行買収部分の給付は可分であり、既に履行された部分のみで本件業務委託協定の目的を達成することは可能であるから、履行された先行買収部分について、被告は後記の報酬ないし費用を支払う義務を負う。
2 主位的請求についての費用報酬若しくは損害
(一) 原告は、本件業務委託協定に基づき、平成四年五月までに本件土地を被告のために取得し、前記のとおり右協定を解除した平成九年五月一九日までこれを被告のために管理していた。
(二) 前記のとおり、本件業務委託協定は、委任及び準委任の混合契約であり、被告は、原告に対し、先行買収した土地につき、少なくとも買収費用、報酬、公租公課及び土地管理費等の諸経費として、買収予定価格と同額である三・三〇五七八平方メートル(一坪)当たり二五万円を支払う旨約したものというべきである(なお、右協定上の義務に違反した被告が、これを下回る金額を主張することは、信義則上許されない。)。
(三) したがって、原告は、被告に対し、本件土地の契約面積(三万一一六九・七〇二七六坪)に一坪あたり二五万円を乗じた七七億九二四二万五六九〇円の費用報酬の支払いを求めることができる。また、原告は、被告の本件業務委託協定の不履行により、右同額の損害を被ったものである。
(四) よって、原告は、被告に対し、本件業務委託協定に基づく費用報酬として、又は、債務不履行による損害賠償として、七七億九二四二万五六九〇円及びこれに対する弁済期の後の日である平成九年五月二〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 予備的請求についての報酬(争点2)
(一) 原告は、前記のとおり、被告のために、本件土地を先行買収し、かつ、平成九年五月一九日まで本件土地の管理をしたところ、その買収・管理に要した費用は、六二億四九六五万四二五五円であり、そのうち、本件土地の買収費用は、四一億七五九六万一〇三四円である。
(二) 原告は、被告のために本件土地を買収したのであるから、代理売買と同様の行為をしたということができ、その報酬としては、昭和四五年一〇月二三日建設省告示第一五五二号「宅地建物取引業法の規定により宅地建物取引業者が受けることのできる報酬の額」第二に定める代理売買の報酬と同額、すなわち、土地の買収代金の一〇〇分の六である二億五〇五五万七六六二円が相当である。
(三) よって、原告は、被告に対し、商法五一二条所定の商人の報酬及び費用の償還請求として、右買収管理費用と報酬の合計六五億〇〇二一万一九一七円及びこれに対する弁済期の後の日である平成九年五月二〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
五 被告の主張
1 本件業務委託協定は、原告において平成五年八月二〇日までに三三万平方メートルの土地を先行買収した上で、当該土地の所有権を一括して被告に移転するという不可分の仕事の完成を目的とする請負類似の契約と解するべきである。
そして、原告は、右期限を経過しても約定の約三分の一にすぎない約一一万平方メートルの土地を買収したにとどまったものであるから、自らの債務を履行しなかったものであり、かつ、原告が買収した本件土地のみでは、本件業務委託協定の契約目的を達成し得ないから、被告には本件土地の買取りを行う義務は発生しない。
2 原告は、被告に対し、商法五一二条所定の報酬等の請求権を有すると主張するが、商法五一二条は、商人がその営業の範囲内の行為をすることを委託され、その行為をした場合において、その委託契約の報酬について定めがない場合に、相当の報酬を請求できるという規定であり、本件のような不可分の仕事の完成を目的とし、その対価も明確に定められている請負類似の契約である本件業務委託協定に適用される余地がない。
第三当裁判所の判断
一 争点1について
1 前記争いのない事実等に加え、後記認定事実中に掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 平成二年二月二一日、被告の東京支社内に開発営業統括部並びにその管轄下に地域開発部及び同地域開発課が新設され、本件事業計画はこれらの部署が担当することとなった。そして、開発営業統括部長に那須貞之(以下「那須」という。)、地域開発部長に木原えい二(以下「木原」という。)、地域開発課長には増子嘉一(以下「増子」という。)及び生石満宏(以下「生石」という。)が就任した。
その後、同年四月には、地域開発部の副部長として宗田明(以下「宗田」という。)が就任した。(乙三、乙一二の一ないし四、乙一五、証人那須)
(二) 本件事業計画は、平成二年二月ころ、右各部署が設けられた直後に生石が地域開発部に持ち込み、地域開発部が推進することとなった。
生石は、当時原告に用地買収等を依頼していた千葉市緑区宮崎町の集合住宅事業プロジェクトを担当していたため、那須は、同年五月下旬ころ、生石に対し、本件事業計画から離れ、右宮崎町のプロジェクトに専念するように申し渡し、以後は、那須、木原及び宗田らが本件事業計画遂行業務に従事した。ただし、生石は当時の共同事業者であった住友不動産の担当者と面識があったため、住友不動産との交渉の場に同行することがあり、被告内部において、形式上、本件事業計画の現地担当とされていた。
しかしながら、生石は、本件事業計画の担当から外された後も、那須、木原及び宗田の了解を得ることなく、地権者からの土地区画整理事業に関する仮同意をとりつけたり、先行買収した土地の買取りに関する原告あての確認書と題する書面に署名するなどの行為をした。(甲一九の一三四ないし一六九、甲二四、甲二八の一、二、乙一五、証人生石、証人那須)
(三) 本件事業計画における土地の先行買収面積決定の経緯
本件事業計画の遂行によって共同事業者が得る営業利益は、<1>区画整理事業に伴う造成工事等を受注することによって得られる利益と、<2>先行買収した土地を宅地化し、これを宅地分譲あるいは戸建て建物やマンションを建築して分譲するなどによって得られる利益の二つであり、被告は<1>と<2>の双方の利益を目指すのに対し、不動産業者である住友不動産及び被告補助参加人殖産住宅相互株式会社は専ら<2>の利益のみを求めることになるため、被告は、本件事業計画において先行買収する土地の面積につき、事業として採算を得、かつ、成功を収めるためには、相当程度の規模の用地買収が必要であると考えていた。
また、被告は、土地区画整理組合設立の認可の要件である同意を得るためには、先行買収した土地の面積が広いほど容易になること、先行買収した土地は交換用地等として使用するなど、事業の遂行を円滑にする役割も担うことからも、可能な限りの土地を取得することを意図していた。
さらに、平成二年当時、一般に土地区画整理事業を成功裡に終わらせるためには、当該地域の土地の先行買収につき、官主導の施工では四〇パーセント、民間主導の施工では三〇パーセント以上の土地を先行買収することが必要であるとされていたことから、被告は、これらの事項を考慮し、本件事業を首尾よく遂行するために五〇万平方メートル(約一五万坪)程度の土地を先行買収することを決め、そのうち一〇万坪の土地を原告に買収させることとした。(乙二、乙一五、証人那須)
(四) 本件事業計画のスケジュール決定の経緯
本件事業計画の対象とされた地域は、市街化調整区域であり、本件事業計画を遂行するためには右地域が市街化区域に編入される必要があったところ、市街化調整区域等の見直しは通常五年ごとに行われており、同地域については平成七年に見直しが行われる予定であった。被告は、この点に鑑み、平成五年を目途に区画整理組合設立発起人会、それに続いて準備委員会を発足させ、平成六年には市街化区域編入申請を行う必要があると考え、また、右スケジュールに照らし、土地の先行買収は区画整理組合設立発起人会発足の前に完了しておく必要があったため、当初は平成四年一〇月までに土地の先行買収を完了させるとのスケジュールを設定していた。(乙二、証人那須)
(五) 先行買収資金の融資について
原告は、本件業務委託協定に基づく土地の先行買収を行う資金を調達するため、平成二年九月初旬、生泉興産株式会社(以下「生泉興産」という。)との間で、生泉興産が原告に対し、土地の買収を行う度に現実に金銭の交付をするという方法で一二〇億円までは融資をするとの合意をした。
右融資の交渉及び手続は、生泉興産と原告との間で行われ、生石が個人的な立場で右交渉等に立ち会うこともあったが、被告は、右融資には一切関与しなかった。(乙一五、証人生石、証人那須、原告代表者本人、弁論の全趣旨)
(六) 本件業務委託協定締結の経緯について
本件業務委託協定締結の際には、原告と被告の那須、木原らが交渉を行っており、生石は関与していなかった。
当初、原告から被告に示された業務委託協定の草案には、業務委託期間として、平成五年八月二〇日までとするとの記載及び原告から被告への土地の売却価格は二五万円とするとの記載がある反面、先行買収を行う土地の面積に関する規定が設けられておらず、また、対象土地すべてを一括して原告から被告に売却することが明確にされていなかったため、原告代表者と那須及び木原が原告の本社において数回協議を行い、右の点を明確にするように協定書の条項を作成した。
なお、被告は、本件事業計画策定の当初の段階では、土地の先行買収につき、一万坪程度の単位で順次原告から買い取る方針をとっていたが、本件業務委託協定の締結交渉の際、原告が、三三万平方メートルの土地の買収を平成五年八月二〇日までに完了し、一括して被告に売却する旨提案したため、被告はそのように方針を変更した。
次に、原告から被告への土地の売却代金について、被告側は一坪当たり二一万円から二二万円を主張し、数回にわたって交渉を行ったが、原告が生泉興産からの融資を有利に引き出すために一貫して一坪あたり二五万円を主張したため、被告は、三三万平方メートルの土地を一括して購入できるメリットも考えた結果、譲歩して最終的に原告の提案に応じた。その上、右代金について、当初は一坪当たり二五万円とすると明瞭に規定することとされていたが、国土法上に規定された手続を経ることなく売却価格を一坪当たり二五万円とする旨記載すると国土法に抵触する疑念があったため、二五万円を目途とする旨の記載に改めた。
さらに、当初の原告の草案では、業務委託期間は平成五年八月二〇日までとするとされていたが、若干の日のずれを許容するという点から目途とする旨の文言が挿入された。(甲一、甲二五、乙二、乙一四の一、乙一五、証人生石、証人那須、原告代表者本人)
(七) 本件業務委託協定締結後の経緯
(1) 平成四年六月下旬ころ、原告代表者は、被告の東京支社を訪問し、当時、被告の東京支社長であった新井貞夫に対し、「生泉興産からの融資が止まるかもしれない。融資が止まれば土地の買収に支障を来すので被告からの資金援助をお願いしたい。」と申し入れたが、新井はこれを拒否し、本件業務委託協定の履行を求めた。
また、同年七月初旬ころ、生泉興産の取締役らが被告の東京支社を訪問し、本件業務委託協定について尋ねたが、新井は、本件事業計画の基本方針に変更がなく、原告との本件業務委託協定についても各条項を遵守する旨回答した。
その後、生泉興産は、被告に対し、平成五年一月二二日付け及び同年五月二八日付けの書面により、三三万平方メートル未満の土地面積であっても被告が買取りに応じること、同年八月二〇日までに一旦融資の精算が行われることの二点について被告に確認を求めたが、被告は、これに対し、同年六月二五日付けの書面により、右確認につき否定的な回答をするとともに、本件業務委託協定の内容を変更するつもりはない旨伝えた。(乙三、乙五ないし乙七)
(2) 原告は、平成四年一〇月一日、有限会社スペースプラン(以下「スペースプラン」という。)との間において、本件事業計画に基づく土地の買収業務を原告がスペースプランに委託する旨の業務委託契約を締結した。 右契約においては、業務委託期間は平成五年七月末日までとされており、また、原告において業務委託期間内に土地すべての買収が完了しないと判断した場合は、原告は、何らの催告を要することなく右契約を解除することができる旨の規定がある。(乙一)
(3) 被告は、被告補助参加人らとともに、平成五年三月一八日、スペースプランと業務委託契約を締結し、土地区画整理事業に必要な地権者の仮同意を取得することをスペースプランに委託したが、右契約は、同年八月末日をもって終了した。なお、被告やスペースプランは、入会共有地を除く地権者三八三名のうち三〇三名から仮同意を取得した。(甲七、乙八、九)
(4) 被告は、平成五年四月一日付けで、本件事業計画を実施していた東京支杜の開発営業統括部管下の地域開発部、地域開発課を廃止し、以後は土木部に配属された宗田や増子が本件事業計画の担当を継続した。(乙一三、証人生石)
(5) 原告は、本件業務委託協定締結後、平成四年五月まで順次本件土地を買収していったが、平成五年八月二〇日までの間、被告に対し、本件土地の買取りを求めたことはなかった。(乙二)
(6) 平成五年九月ころ、被告は、本件事業計画の対象となった土地の地権者に対し、本件事業計画を中断する旨の通知を発したところ、原告は、右地権者に対し、原告が事業計画を引き続き進めていく旨の通知を発した。(甲一九の一六九、乙一〇ないし乙一一の二、原告代表者本人)
(7) 平成七年六月下旬ころ、原告代表者は、被告の東京支社を訪れ、新井に対し、清水建設株式会社に事業計画への参加を打診していることから、被告においても再度本件事業計画を推進してもらいたい旨申出をしたのに対し、新井はこれを拒否した。
また、原告代表者が平成六年一一月ころに株式会社大林組を訪れ、本件事業計画への参加を打診したことを受けて、平成七年一〇月三一日、同社の社員が、本件事業計画の経過について事情を聞くために被告の東京支社を訪れた。(乙三、乙四)
2(一) 他方、原告は、本件業務委託協定締結時に関する事実経過について概ね以下のとおり主張し、右主張に沿う証人生石の証言及び原告代表者の供述ないし陳述が存在する。
(1) 本件業務委託協定の締結に当たっては、生石と原告代表者らが交渉に当たった。
(2) 本件業務委託協定に係る協定書上、先行買収する面積として三三万平方メートルを目途とする旨の記載があるが、右記載はあくまで目安であり、被告には三三万平方メートルの土地を一括して原告から買い取る意図はなかった。
(3) 本件業務委託協定上、原告から被告への土地の売却価格が二五万円と定められたのは、専ら生泉興産からの融資を受けるためであり、実際は、土地の買収価格の一定割合を被告から原告へ報酬として支払うことが予定されていた。
(4) 本件業務委託協定における業務委託期間については、当初平成七年とする旨被告が原告に提案していたが、原告側において、本件融資にあたり生泉興産から、三年ごとに借入金の清算手続を行い、再度新たな融資をする方法で貸付をしたいとの条件を付けられたことから、協定書上の業務委託期間も右条件に従い平成五年八月二〇日までとしてほしいと要望した結果、被告もこれを了承し、協定書において業務委託期間を平成五年八月二〇日を目途とすると記載したものであり、当然に期間が延長されることが予定されていた。
(5) 被告は、平成五年八月二〇日以降も、地権者から仮同意書を取り付けており、本件事業計画を継続する意思を有していた。
(二) しかしながら、右生石の証言及び原告代表者の供述等には、以下に述べる疑問点があることから、容易に採用することができない。
(1) 原告代表者と生石との間に、個人的な交友関係があることは生石の証言からも明らかであり、かつ、前記のとおり、生石が自らの上司の了解や決済も得ずに本件事業計画に関わる活動をしていたことに照らせば、基本的に生石の証言には、その信用性おいてに大いに疑問があるのみならず、その内容においても、本件業務委託協定の締結に際しては原告代表者との交渉に従事していた旨供述しながらも、その具体的な事実経過や本件業務委託協定の原案(乙一四の一、二)についてはあいまいな供述に終始していることからするとたやすく信用し難い。
(2) 被告が、平成二年六月付けで作成した事業計画概要書(甲二五)中には、「一万坪程度のまとまりがついた都度買い上げていきたい。」 「当面二年間を買収目標期限として」などと記載されているが、右書面は、明らかにその時点における被告の内部資料にすぎず、本件業務委託協定締結当時においても本件事業計画に関する被告の方針が右書面と同一であるとは断定できない。かえって、原告は、本件業務委託協定締結後、順次本件土地を買収し、前記のとおり平成四年六月ころには、被告に対し、資金の援助を求めるような状況に至っていながら、平成五年八月に至るまで一度も本件土地の買取りを被告に求めていないことに照らせば、本件業務委託協定締結当時、原被告間において原告が先行買収した土地につき、被告が一定の面積ごとに順次買い取る旨の合意があったとは認め難い。
(3) 原告は、本件業務委託協定において、原告が土地の買収価格の一定割合を報酬として被告から受け取ることが予定されていたと主張し、被告が平成二年七月二一日付けで作成した本件事業計画の検討指示事項報告書(甲二八の二)中には、概略事業収支の支出欄に、手数料六パーセントプラス六万円などと記載されている。しかしながら、右書面は、被告の東京支社長が被告社内の上部に宛てて作成した報告書であり、明らかにその時点における被告の内部資料にすぎず、証拠(甲二二の三ないし六、一〇ないし一四、甲二七)によれば、前記宮崎町集合住宅プロジェクトにおいて、原告は、被告との間で売買代理契約を締結し、用地の売買契約成立時に一定額の報酬を被告が原告に支払う方法を採用しているが、その場合には、その旨の契約書を作成していたことが認められるにもかかわらず、本件に関してはそのような契約書を作成した形跡がないことが認められることに照らせば、原告の右主張に沿う生石の証言及び原告代表者の供述は信用し難い。
(4) 本件業務委託期間が平成五年八月二〇日とされたのは生泉興産から融資を受ける都合のみによるもので、被告は当初平成七年までとすることを主張していたとの点も、前記認定のように、本件事業計画を遂行するためには、平成七年度に行われる市街化調整区域等の見直しにおいて、本件事業計画の対象となる土地が市街化区域に編入されることが必須の前提となっていたことからすると、不自然という外はない。
(5) 原告は、平成五年八月二〇日以降も、被告が地権者から仮同意書を取り付けており、本件事業計画を継続する意思を有していたと主張するが、本件事業計画に関する権限のない生石が、上司の了解もなくそのような作業を行った経緯はあるものの(甲一九の一六九、証人生石)、被告の正式の担当者が行ったことはないのであるから、生石の右行為をもって、平成五年八月二〇日以降も被告が本件事業計画を継続する意思を有していたと認めることはできない。
3 以上を前提に、争点1について判断する。
まず、前記認定のとおり、被告において、本件事業計画を策定するに当たっては、一五万坪に上る土地の先行買収が事業を成功させるために特に重要な要件であるとして企画され、本件業務委託協定の締結をめぐる交渉の際に、当初は先行買収を行う土地すべてを一括して原告から被告に売却することが明確にされていなかったのに対して、数回の協議を経た末、先行買収を行うべき土地の面積と合わせてこれらの点を明確にするように協定書の条項を作成し、本件業務委託協定を締結していることに加え、本件業務委託協定においては、原告が取得した土地全体を一括して原告から被告への売買契約を締結するための国土法の届出を行うものとする旨定められ、特に原告が取得した土地の一部について国土法の届出を行う場合は別途協議する旨定められていることに照らせば、原告は一〇万坪の土地(多少の幅はあるとしても、一〇万坪に近い面積の土地)を先行買収した上、これを一括して被告に移転することが合意の内容となっていたものというべきである。
次に、前記認定の本件事業計画の目的、スケジュール、さらには、原告が土地買収を再委託したスペースプランとの間の業務委託契約においては、業務委託期間が平成五年七月末日と確定的に定められていることに照らせば、本件業務委託協定における業務委託期間は、目途との文言があることから、多少の期間の遅延は許されるとしても、当事者間の協議により延長されない限り、平成五年八月二〇日までとするというものであったと解するのが自然である。
また、原告は、被告が行うべき土地買収を原告において費用を立て替えて代行したに過ぎないと主張するが、被告は、原告が土地の買収費用を調達するために受けた生泉興産からの融資には全く関与していないこと、本件業務委託協定では被告が原告から買い受ける土地の代金額を坪二五万円と定めているところ、右金額は、原告が実際に本件土地を買収した価格と比較すると、買収対象の土地の時価より相当高額であると推認されること、原告は、被告から本件事業計画中断の回答を受けた後、被告に対して本件土地の買取りを要求することなく、独自に事業計画を続行する意向を表明したり、他社に事業参加を打診していることに照らせば、原告は、被告の指示に沿って土地の買収を代行していたものではなく、独自の計算と責任において先行買収を行っていたものというべきである。
以上によれば、本件業務委託協定の法的性質を委任と準委任の混合契約と解するにせよ、請負類似の契約と解するにせよ、本件業務委託協定において、原告は、平成五年八月二〇日までに、多少の遅れは許されるとしても、三三万平方メートルないしそれに近い面積の先行買収を行い、その結果取得した土地の所有権を一括して被告に移転する義務があったものというべきである。
そして、原告が右の義務に違反したことは明らかであり、前記認定の本件事業計画の目的に照らせば、原告が実際に先行買収を行った土地のみでは本件業務委託協定の目的を達成することはできないものと認められるから、原告は、本件業務委託協定に基づいて被告に本件土地の買取りを求めることはできないものというべきであるし、被告が本件土地の買取りを拒否したことが債務不履行を構成するということもできない。よって、この点に関する原告の主張は理由がない。
二 争点2について
原告は、本件業務委託協定は委任と準委任の混合契約であるから、商法五一二条の適用があるとして、本件土地買収に要した費用と報酬を請求している。しかしながら、本件業務委託協定の法的性質が原告主張のとおりのものであったとしても、商法五一二条は任意規定であり、当事者間の合意によりその適用を排除することができるものであるところ、本件業務委託協定の内容は、前記のとおり、原告において平成五年八月二〇日までに三三万平方メートルの土地を買収してこれを被告に売却することが原告の義務の中核であり、それが果たされなかった場合における費用報酬について何ら定めていないことからすれば、その場合には、原告は費用及び報酬を請求することができないことを当然の前提として本件業務委託契約を締結したものと解される。
したがって、本件においては商法五一二条の適用はなく、原告の請求は理由がない。
第四結論
以上のとおりであるから、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高田健一 裁判官 内藤正之 裁判官 衣斐瑞穂)
別表<省略>